著者の大塚篤司先生が経験された3度の教授選の体験を中心に、大学医学部が持つ独特な多面性(暗黒性)が浮き彫りとなり、あたかも医局の片隅で見聞きしているような瞬間が連続するように展開します。大塚先生と援護にまわる方々のエネルギーあふれる小説。そして、発行人は幻冬舎を築きあげた見城徹さん。エネルギッシュで、周囲に刺激と勇気を与え、人の渦を作る能力のある方。きっと、大塚先生と見城さんとの共鳴があり、この書籍が魅力に溢れるものとなったのではと想像しました。
私たちが属する社会領域のほぼ全てにおいて、表の顔、裏の顔が存在します。さらに、想像がつかない別側面も多数・複雑に存在する中、自分の業務を前に進めていくには、エネルギーを持って打ち当たり、そしてすり抜けていく巧みさが求められます。著者の大塚篤司先生は、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授を務めておられ、医学教育に加えて、アトピー性皮膚炎、乾癬の治療分野で世界に先駆ける情報発信をされています。この本を読んでいると、大塚先生が日頃から放出されている教育・診療・研究での熱量が相当なレベルであることを実感します。
章を読み進めていくと、大塚先生の高いグローバル感性が場面転換の時々にキラリ鍵と光っています。近年、中学〜大学の教育場面において “グローバル化“という単語によく出会います。国際的人材を育成していこうという気運があることは大変うれしく思います。そこでグローバル化の本質はいったい何ぞやと自問することがあります。グローバル化=英語(英語で会話し、英語でコミュニケーションをとる)のような解釈がされているように感じる場面が多くあります。しかし、私のこれまでの多様な分野で活躍する多くの世界人との交流経験から、グローバル化=”世界の人たちが十分納得できる論述ができ、それを基とする情報発信と交流ができること“なのではと思っています。言語は一番得意な言語で良いと思います。日本人であれば、日本語で。ただし、論述過程において、一文一文が解離なく展開でき、仮定・背景情報・現状解析・展開と展望、そして、それらから期待される分野貢献について自分独自のものとしてしっかり発信できていると、世界のどの国の人とも実のある交流が果たせます。英語はどうするのですか?と聞かれることがありますが、たどたどしくても問題ないし、翻訳機があれば事足ります。極論を言えば日本語でもかまわない。発信をしていたら誰かが通訳をしてくれます。しかし、論述は個人の実力を真に反映しますので実力がもろに露出します。そして、個人の国際経験がちりばめられた軸にずれのない論述ができれば、その人のオリジナルな個性が光り、個人のグローバル化が達成されるのではと思います。
国際経験は、日本に生活していても多種多様に得ることができます。一人一人の経験の重要性にいかに気づいて、その経験一つ一つを線に、そして面にできるか。それは個人の力に大きく左右されるものです。個人が獲得する国際経験。本書籍は国際経験を個人の貴重な宝としてグローバル化にむけて発信する重要性をそっと教えてくれている教本と感じました。貴重な体験談を書籍として残していただいたことに感謝申し上げます。