デザイナーの佐藤卓さんが営まれている株式会社TSDOのHPには、デザインとは物事を適切に繋ぐための技術であると表現されています。もうすこし詳しくは、“まず状況を把握し、問題・課題を発見し、適切に表現に落とし込み、その後を観察し、調整するべき時が来たら丁寧に調整する、このような技術のことを、総合的に「デザイン」と捉えています。”と述べられています。この説明を読んで、クリニック診療での心がけと共通共有するところが多いなと感じ、著書を読んでみることとしました。
この本との出会いを演出してくれたのは、ニッカ フロム・ザ・バレルでした。いろいろなウイスキーサイトにてハイボールで飲みたいウイスキーランキングの上位で登場しているのは知っていました。たまたま、近くのスーパーでほぼ希望小売り価格で販売していたので手に取りました。“小さいけど存在感たっぷりの実力者”というのが最初の印象でした。ラベルは主調しないライトグレー地で、キャップの色と統一されており、それらが瓶に広がる琥珀色と醸し出す綺麗なコントラストには芸術を感じます。このデザインを1985年に手がけたのが佐藤卓さん。濃いものが小さな器に入っていて「美味しそう」という味覚が自然に引き出されることを意識してデザインされたそうです。ながめては手に取り触ってを繰り返してみて、佐藤卓さんが落とし込んだ表現は、37年経った今も新鮮に伝わっていることを実感しました。
さて、タイトルにある潮を吹くクジラについては、最終章で記載されていました。ロッテクールミントのデザインのリニューアルを担当した時の紹介です。35年間デザインされていたペンギンがたたずみ奥でクジラが潮を吹きながら泳ぐ南極の一コマを知っている人にも納得してもらえるニューデザイン。モノと人とのささやかな関わりを丁寧に見て考えて生まれてくるデザイン。その丁寧さは、診療の場でも大切にしたいと感じた一冊でした。