マウリッツハイス美術館が行ったヨネヘス・フェルメール作の「真珠の首飾りの少女」の科学解析結果が本日公開されました。”The Girl in the Spotlight”と名付けられた2018年2月からの解析研究の成果です。少女の背景には緑のカーテンが描かれていること、そして、少女が巻いているターバン(またはスカーフ)は、アフガニスタンで採れた高価な鉱石ラピスラズリを高温に熱した後に粉砕することでより青を際立たせた顔料で描かれていることなどが報告されていました。

その中で驚きだったのは、少女の左耳に飾られている真珠が、なんと幻影The pearl is an illusion(あの真珠は幻影だった:院長訳)であったとのことです。“真珠“は明瞭な白い部分と、半透明かつ不明瞭な白色部で構成されていて、半分くらいは肌が透けています(写真1, 2と報道資料を参照ください)。私は、オリジナルの絵には対面していませんが、徳島の大塚美術館で精密な陶板複製画を何度も観ていました。まったく気づきませんでした。真珠そのものが幻影ではなく、フェルメールと少女の間に流れる、透けるような空気感を演出しているのではと感じました。やわらかな輪郭を持ちながら透明感と清楚感のある絵画のアクセントに改めて感動します。

驚きとともに勉強になりました。レントゲン画像で診断する際に、いつも新しい感覚で画像を見ることが大切なことを改めて学びました。当院では肺がん健診でも多くの方に受診いただいております。肺のレントゲン診断画像は、肺の陰影に加えて、肋骨の陰影、血管の陰影、心臓の陰影、乳房の陰影など様々な陰影が複雑に重なり合って1枚の画像が成り立っています。真影なのか幻影なのかを冷静にみつめながら、肺がんの早期発見に努めたいと実感しました。

最後にこの研究を率いたのは、Ms Abbie Vandivereという絵画保存家(写真3に解析風景)。2001年プリンストン大卒。1年生では歯科医を目指して科学講義を受ける。2年生で絵画保存に興味を持ち進路変更。胸郭や赤血球など、人間科学に関係する絵画も描きながら絵画保存に情熱を架けている方です。科学と知識と情熱を降り注いで貴重な情報を発信してくれていることに、心から感謝します。 

(写真1-3はマウリッツハイス美術館の許可を得て掲載しています)

マウリッツハイス美術館報道資料

Ms Abbie Vandivereによる研究講演(きれいな英語です)