ジャズという音楽を時間と労力を極力使わずに理解するにはどうしたら良いか、という問いかけを持ちながら、いろんな人の解説を聞いてきました。その中で群を抜いてすばらしかった解説者が大橋巨泉さん。彼の解説をわずか20-30分聞くだけで、なんだかわかった感が生まれます。この感じがもたらす充実感は他の方の解説では味わえない独特なものでした。
気に入った解説は100回、200回と繰り返し聞いてみて、わかった感をもたらしてくれる彼独特の解説のkeyにいくばくか気づきました。一番なるほど!と感じたのは、曲解説の際に、まずはより有名な、知識が未熟な初心者でも知っている曲に触れて頭の中で座標を置かせます。そして、その曲と解説する曲との異なりを軸として解説するテクニック。このことで、あいまいながら知っていた曲と解説曲の2つが脳の座標内にプロットされます。3曲の解説を聞けば、4点がプロットされるので、3次元的な配置としてそれらの曲が理解できるのです。このように、たった3曲の解説でも、一旦3次元配置的な理解ができれば、新たな曲を理解するのも簡単になるし、楽しくなります。さらに、その曲を歌うジャズシンガー達を新たなベクトルとして配置すると、音楽が4次元、5次元的に理解が深まっていきます。
このように私にとっては魅力あふれる解説をしてくれた大橋巨泉さんのテクニックは、仕事にもずいぶん活かされてきました。これまでの学生講義、学会や教育講演活動にどんどん応用させていただきました。わずかな時間、限りある時間の講演ですが、より深く理解いただきたいと講演を修正するにあたって、常に応用してきました。これらの積み重ねは、日常診療にもすこしは役にたってくれていると期待、つまり、病気の現状をより早く・より正確にご理解いただくことにつながっていればと思っています。
「巨泉〜人生の選択」の本では、ジャズ解説者として、TV司会者として、彼が歩んできた軌跡が記されています。知識を深める、感性を豊にする、どのように人に出会い、どのように自分の人生を切り開くのか。読んでは、YouTubeで解説を聴く、その繰り返しが、新たな気づきをもたらします。自分の人生設計のエキスとして、為になることがきっと見つかる本と感じました。