2021年11月11日(木曜)20時、大阪で開催された「糖尿病治療up dateの会」に出席し、関西電力病院総長の清野裕先生から、インクレチンを中心とした生体内血糖応答のメカニズムと糖尿病治療についての講演を聞きました。清野先生は、インクレチン機構の解明を含めた糖尿病発症から創薬までの糖尿病研究と、それらの成果を臨床現場に届けることに熱意を持って取り組まれている、世界的糖尿病学者です。

血糖が通常域から高い状態になった場合に、様々な臓器・組織に作用し、血糖を下げる働きをする物質の一つに、インクレチンと称される消化管ホルモンがあります。インクレチンは、食事接種によって消化管(主に小腸や大腸から)から分泌される物質。糖分が過剰に体内に入った際には、インスリン分泌刺激が誘導されて血糖を下げるのですが、その際の分泌インスリン量の約50%程がインクレチンによる信号伝達がもたらしてくれます。

インクレチンの概念が提唱されたのは1902年。その後、精力的な研究がすすみ、糖尿病治療に効果を発揮する次にあげるような多面的な働きが明らかになり、約100年経過した現在、糖尿病治療薬として患者様の治療に役立っています。

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1 膵臓に働きインスリンを分泌させる。同時に、血糖を上げる物質(グルカゴン)の膵臓からの分泌を下げる。

2 脳に働き食欲を下げる

3 胃の中に入った食べ物が小腸へと移動する速度を遅くする

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このインクレチンを旨く活用する糖尿病治療薬が複数の種類、処方可能となっています。しかし、インクレチンを介して血糖を下げる生体メカニズムは、糖尿病の状態(血糖がすこしだけ高いレベルなのか、すごく高いレベルなのか)によって、細胞に伝わる分子伝達経路が異なります。つまり、HbA1Cで評価する高血糖状態で区別すると、例えば7.4以下の比較的血糖が低めの状態であれば、内服での効果が期待できる。それ以上のかなり高血糖であれば、別の経路を使う治療を検討する必要がある場合もあります。いずれにしても、糖尿病においては、血糖が高くなりすぎる前に内服治療を開始することで、広い内服治療の選択枝が確保できます。糖尿病と診断された際には、内服治療開始のタイミングを逃さないことが重要です。