今回は、人間の体における鉄の大切さについてのお話しです。鉄は赤血球に含まれる酸素運搬の働きをするヘモグロビンの原料です。鉄の慢性的欠乏は貧血の最も多い原因となっています。食事接種の偏りによる鉄不足、月経血での血液喪失、胃腸の調子が良くないことでの鉄吸収不良、胃・十二指腸潰瘍や癌病変からのじわじわとした出血などが持続することなどで鉄欠乏性貧血は発生します。
さて鉄はヘモグロビンを産生する以外にも大切な働きをしています。それは、細胞内でエネルギー(ATP)を生み出すTCAサイクルと呼ばれる代謝経路の重要な補酵素としての働きです。生体内で鉄が欠乏すると、細胞はエネルギー(ATP)を十分に確保するとこができなくなります。ですから、心臓の働きが弱くなったり、肝臓の働きが悪くなったりします。事実、鉄欠乏状態と心不全による死亡率とは密に関連するという調査報告がなされています。
さらに、TCAサイクルが上手く働かないと、途中の代謝物質(ピルビン酸)が蓄積し、乳酸という疲労物質がたくさん生み出されます。また、アセチルCoAを介して脂肪が体内に蓄積します。ですから、鉄欠乏状態を見逃していると、貧血症状としての疲労症状に加え、鉄欠乏に由来する臓器機能障害が重なり、さらに疲労物質蓄積によるだるさ、疲れ易さ、立ちくらみ等の症状が重なり、深刻な疲労症状に繋がります。
2019.6.6(木)20時〜、難波で開催された鉄・リン・カルシウムを考える会に参加し、大阪市立大代謝内分泌病態内科学教授の稲葉雅章先生から鉄欠乏と関連する心不全とその予後についてのお話を聴きました。情報交換会では、稲葉先生と、鉄欠乏での治療薬の選択と治療頻度について意見交換を行いました。 院長はこれまでの数多く診察してきた腎不全患者さんでの鉄欠乏貧血と鉄剤治療での治療効果のデータを深く解析してきました。これらから得られた知見を基に、クリニックに来院される患者様の貧血状態を的確に把握し、貧血の状態と患者様の生活背景を勘案しながら、最も適した治療法をご提案することを心がけております。最近、疲労感が増してきたなとお悩みの方は、一度貧血と鉄の状態を測定してみることをお勧めします。